第38回香川菊池寛賞
石丸洋志「白の記憶」
舟遊びをしてくれていた女の人の、桜柄の着物の袖口から覗いていた白い手首と手の甲。淡い記憶だった。
夏。一枚の個展案内の絵葉書が届いた。土田妙子という人形作家の個展だった。
妙子は私とふたいとこにあたるのだという。母に聞いてみたが知らないと言った。
講演を聴きにいったホテルのロビーで妙子作の人形に出会う。記憶に残る女の人に似ていた。人形は戸籍にない実母がモデルだった。
育ての母と実母、二人の沈黙は、私に対する優しさだったのか。
私は事実を知ったが二人の黙約に感謝していた。母と養女の妹。
たいへんな暮しだったが、それなりに幸せな日々であった。
私にも再婚した妻の連れ子がいる。この男の子を母が懸命に私を育ててくれたように見守っていこう。そう誓う私がいた。
著者プロフィール
石丸洋志(いしまる ひろし)
丸亀市在住 税理士
香川県立坂出商業高等学校卒業
四国新聞読者文芸短編小説入賞
第38回香川菊池寛賞受賞
第7回難波利三・ふるさと文芸賞入選
放送内容
朗読:采野 友啓
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最終回
2016年8月22日放送
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第8回
2016年8月15日放送
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第7回
2016年8月8日放送
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第6回
2016年8月1日放送
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第5回
2016年7月25日放送
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第4回
2016年7月18日放送
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第3回
2016年7月11日放送
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第2回
2016年7月4日放送
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第1回
2016年6月27日放送